目が覚めるとまだ部屋は薄暗く、窓の外が僅かに白んでいるようだった。夜に水を溶かしたような色の空をぼんやりと眺めていると柔らかな温もりとすうすうという穏やかな呼吸音を感じて、隣でティナリが眠っていることを思い出す。昨夜はガンダルヴァー村のティナリの部屋に泊まった。七聖召喚の対戦中に眠ってしまったティナリを寝台に運び、自分もそのまま隣に潜り込んだのだ。
ティナリは基本的に夜更かしだ。遅くまで仕事の書類や自分の研究作業に没頭しているし、レンジャーという仕事の特性上朝早くから動き出すが早起きは得意ではないようで、ギリギリまで布団を被っている。学生時代も、朝一番の講義は苦手だとこぼしていた。
が、それは仕事の日の話で、今日のティナリはレンジャー長ではなくただのティナリだ。ここしばらく根を詰めていたようで、昨夜ベッドに辿り着く前に眠りに落ちてしまったのもそのせいだろう。休みの日くらい、気の済むまで寝かせてやりたい。
腕を伸ばし、丸い頭を撫でる。こんな時くらいしか、ティナリはセノに甘やかさせてはくれないだろうから。
ピチチ――
鳥の鳴き声が遠くで聞こえて、耳がそちらを向く感覚がした。瞼をゆっくりと持ち上げると、部屋の中は明るい午前の日差しに満ちていた。既に日は昇っているらしい。何時だろうか。
「起きたか?」
覚醒の最中にある脳で考えていると、腕の中から声が聞こえて二度三度瞬きをする。温かいと思っていたら、そこでセノがティナリを見上げていた。
「セノ? いつから起きてたの?」
「さあ、空が白んでいた頃だから三時間ほど前か」
「そんな前からずっとここにいたの!?」
返ってきた答えにティナリは目を丸くする。
「ああ。こんなに長くティナリの寝顔を眺めていられることもなかなかないからな」
更に付け足された情報に、ティナリは布団を鼻まで引き上げる。恥ずかしいやつ! そんなことを真顔で言うなんて! 素直すぎるのも考えものだ。
「楽しいの? それ」
「すごく楽しい」
「そう…………」
布団にくるまってセノの顔を見ると、きょとんとした顔で見つめ返してくる。何か問題があるかと言いたげな表情をするセノがどうしようもなく愛しくなって、その鼻先や瞼に口付けた。
「おはよう、セノ」
そして言い忘れていた朝の挨拶をする。まだ言ってなかっただろ? と頬を撫でてセノを促せば、ふ、と笑って手を重ねられた。
「おはよう、ティナリ」
朝食のあとに昨夜の決闘の続きが待っていることをティナリは忘れているが、それはまた別の話。