「ありがとう。捗ったよ」
珍しく休みを取ったセノがティナリを訪ねて来た。元から約束はなく、セノの突然の来訪にティナリはどうしようかと困惑した。なぜならちょうど研究対象のキノコを採取しに出るところだったからだ。入れ違いにならなかったのが唯一の救いだろうか。
事情を話せばセノは手伝うと言って、せっかくの休みだというのにティナリのあとをついてきた。こうなると何を言っても無駄なのは経験済みだからと、ティナリはセノの申し出をありがたく受け入れることにしたのだ。
午前中から出かけて、作業はセノのおかげで予定よりも早く終わった。持参した一人分の弁当を二人で分け、近くに実っていた木の実をもいで食べながら、互いに最近の出来事を話す。
「ふぁあ……」
「ここのところあまり眠れていないんだろう? 少し休んだらどうだ?」
思わず出てしまったあくびを見て、セノがそう提案してくれる。仕事量が増え始め、論文を書く時間も確保していたら睡眠時間を削ることになった、とほんの数分前に話したばかりだ。
「そんな状態なのに、よく一人で出かけるつもりだったな。魔物や獣にでも遭遇したらどうするつもりだったんだ」
「あはは……それについては返す言葉もないよ」
ぽやぽやした頭では言い返す言葉も見つからず、笑って後頭部を掻く。
「じゃあ、せっかくだし少し休ませてもらおうかな」
そのまま、隣に座るセノの膝へ頭を乗せる。……固い。
「……俺の脚は寝心地が悪いだろう」
その自覚があるのか、ティナリの表情に出ていたのか、セノは少し困ったような声で尋ねてくる。瞼を下ろしながら、ティナリは笑う。
「そうだね」
「……」
セノからは返事がない。重い瞼を片方持ち上げると、セノのその頬は僅かに膨らんで見える。「お前が頭を預けてきたんじゃないか」と文句でも言いたげだ。それがなんだかおかしくて、ふふっと笑って手を伸ばす。
「でも、この寝心地の悪さは君が誰にも負けない強さの証明だから好きだよ」
俯いた彼の柔らかな頬に触れると体温が伝わってくる。温かい。
「セノが誰より強い証だよ……」
だんだん意識がぼやけてきて、語尾が小さく萎んでいく。瞼をこれ以上開けていることもできなくなって、視界がぼんやりするせいでセノがどんな顔をしているのか見えない。
かくん、とティナリの力が抜けて手が落ちていくのを受け止める。眠りについたのだろう。
――セノが誰より強い証だよ。
ティナリはいつだってセノが欲しい言葉をくれる。温かくて、それでいてきゅっと胸が締め付けられるような心地がする。
「ありがとう、ティナリ」
ゆっくり休んでくれ。
その想いを込めながら、その指先にキスを落とした。