「七聖召喚をやらないか、ティナリ」
 出会い頭にそう誘われて、ティナリは思わず言葉を詰まらせた。
 教令院の学生とは出立ちの異なる、しかし歳の頃はティナリと同じくらいの少年は、教令に違反する者を取り締まるマハマトラ、彼らを統べる大マハマトラのセノだ。
「いきなり?」
 大抵の学者も学生も、彼らマハマトラとはお近付きになどはなりたくないらしいことは他の学友の様子からも伝わってくるし、今この瞬間も、学生たちは二人から一定の距離を取ってすたすたと足早に通り過ぎて行く。昨年妙なきっかけで知り合い、今や最も仲のいい友人と言える相手となったセノは、皆が想像するほど恐怖を煮詰めた血も涙もない氷漬けの心を持つ生命ではないのだが、それを知る者は彼の周囲に一体どれだけいるのだろう。
 少なくとも、こうして出会い頭に趣味のカードゲームに誘ってくるくらいには遊び心があり、ティナリは自身より幼い印象すらこの大マハマトラには抱いている。
「もちろん夕食の後だ。空腹状態では脳へのエネルギー供給が不十分で、思考能力が落ちるだろう。そのような状態は決闘には向いていないからな」
「そう……」
 きらきらした瞳で語る友人に並び生返事をしながら、学院寮のティナリの部屋に二人で向かった。明日から学院は長期休暇で、マハマトラの仕事も一時落ち着くというので、数週間前からティナリの部屋で泊まりがけで休暇の開幕を迎えようという約束をしていた。
 つまり、今夜ここは小さな祭会場なのだ。
「お待たせ」
 制服から部屋着に着替え、予め手配しておいた食事とセノが持参した軽食をを卓に並べる。同級生たちと異なり未だ成人に達しない二人は、ノンアルコールのドリンクで満たした杯を掲げた。
「お疲れ様!」
「ああ、お疲れ様」
 飲み物と食事で腹を満たし、一段落したところでセノがそろそろどうだとカードゲームの対戦を持ちかけてきた。それがしたくてたまらなかったのだろうということを知っているティナリは、彼に付き合って組んだ自分のデッキを取りに立ち上がる。
 時間も次の日のことも、何も気にすることなく更けていく夜を友達と過ごす。僅かな背徳感とそれを超える歓楽は何者にも変え難い。隣にいるのが人生のいつを切り取っても一番仲がいいと思えるセノだからこそ、その楽しさはより大きくなるのだろう。

***

 体が揺れた気がして、一気に意識が浮上する。瞼を持ち上げ、喉を震わせた。
「……ん……」
「ん? すまない、起こしたか?」
 視界いっぱいに広がるのはセノの顔だった。なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。
「うん……運んでくれたの? ありがとう……」
 まだぽやぽやする頭で、できる限りの現状把握を行った結果、七聖召喚の対戦中に眠ってしまったティナリをセノが寝台に運んでくれたところらしい。
「疲れが溜まっていたんだろう。対戦の続きは起きてからにしよう」
「ん……」
 セノが何を言っているのか、また薄れ始めた意識では理解はできなかった。
 ただ、昔とは違い恋人になった彼をその腕に抱きしめる。もう一度眠りに落ちる中で、その温かさは夜遊びや睦み合いとはまた違う幸せをくれるのだと、無意識下で感じた。