きみにおぼれる

 セノ。
 普段、コレイやの前やほかのレンジャー、共通の友人である旅人やカーヴェ、アルハイゼンの前で呼ぶ時とは違う、甘い声で呼ばれて、心臓が跳ねた。
 ティナリがこういう声でセノを呼ぶのは合図だ。
「こっち来てよ」
 ベッドに腰掛けたティナリは、隣をぽんぽんと叩いて座れと示す。言われるがまま、セノはそこへ近付いた。
「っあ、おい」
 瞬間、すっと伸びてきた手に引っ張られて、体勢を崩す。どさりと倒れ込むところを咄嗟に手をついた。
「いきなりなにを――」
 ティナリの顔を真下に見下ろしながら発した抗議の声は、あっという間にその口へ吸い込まれてしまった。いつの間にか後頭部に手を回されている。
「ちゅ、ぷ……」
 可愛らしい音を立てて、ティナリの唇が離れていく。思わず瞑ってしまった目を開くと、僅かに開いたティナリの薄い唇が目に入って、何故だかそのまま目が離せなくなってしまった。頭の後ろに回されていた腕するすると下りていって、セノの指は絡め取られる。
「好きだよ」
 目を細めそう囁くティナリの声は甘やかで、なんと色気のあることだろう。
 ティナリの艶やかな黒髪は、仰向けに倒れ込んだせいでシーツに広がっている。今彼に覆い被さり、見下ろしているのはセノのはずなのに、自分はこれからこの男に抱かれるのだと思うと身体がひどく熱を持つ。
 ゆっくりと瞼を下ろし、今度は自らティナリに口付ける。何度も、何度も。まるでおぼれるみたいに。