モンドから入ってきたチョコレートという菓子がある。元は薬として用いられた苦味のあるものだったそうだが、砂糖を混ぜ、次第に嗜好品として楽しまれるようになったのだとか。
コレイ宛に届いたモンドからの小包に、大量のチョコレートが入っていた。送り主曰く「みんなで食べて!」だそうだ。当然コレイ自身もひとりで食べられる量を優に越えていると分かっているようで、村中に配り歩いていた。その最初に、相談も兼ねてやってきたのがティナリのところだったのだが、モンドの偵察騎士は果たしてどういうつもりであの量のチョコレートを送ってきたのだろうか。コレイに言えばその素晴らしさを滔々と説かれるであろうから黙っているが、彼女の太陽であり続けるアンバーという人には未だに分からない部分がある。もちろん、コレイに届いた手紙を読み聞かせていたからティナリもその人となりを多少は知っているし、その厚意に溢れた人間性を美しいと思うが。ティナリとは物事の捉え方が根本的に異なるのだろうか、それとも考えが突飛なのか。
そんな大量のチョコレートが届いた翌日、セノがたまたまガンダルヴァー村に顔を出した。
「ちょうどよかった、助かったよ」
「何かあったのか?」
その問いに、ティナリはんー、と頭を捻る。
「あったと言えばあったかな。まあ大したことじゃないよ」
そう言って、セノに確認を取る。
「セノって甘い飲みもの、だめじゃないよね?」
チョコレートを細かく切って、温めたミルクに溶かす。たったそれだけだが、チョコレートだけをそのまま出すのでは味気ないだろうからとホットチョコレートにしてセノに差し出した。
「コレイ宛に、モンドから大量のチョコレートが届いたんだよ。そのお裾分けをもらったんだけど、僕だけじゃ消費しきれないからね」
そう事情を説明して、セノの隣に腰を下ろした。
さらさらでありながらもこっくりとした茶色い液体。もくもくと立ち上る湯気に乗って、甘い香りが部屋に漂う。
「初めて作ったから上手くできてるか分からないんだけど」
「いや、美味しいよ」
こくりとひと口飲んだセノはそう言ってほうと息を吐いた。
「ほんと? ならよかった」
その言葉に胸を撫で下ろし、ティナリも自分のカップに唇を寄せる。……が。
「あつっ」
それが熱い飲み物であるということと、自身が熱いものが苦手であることを失念していたティナリは思わず飛び上がった。
「大丈夫か?」
「あはは……大丈夫。火傷もしてないみたい……」
溢さなくてよかったよ、と苦笑を漏らす。それを受け、ならいいが……とセノは再びカップに口を付けた。
「……」
しぶしぶカップにふーふーと息を吹きかけて冷ましているうちにも、セノはこくこくとホットチョコレートを飲み下していく。その様子をじっと見ていると、視線に気付いたらしいセノがティナリを見つめ返してきた。
「どうした?」
「いや、なんというか……」
少しだけ、ほんの少しだけずるいと思ったのだが、それをそのまま言うのも少し恥ずかしい。
「ティナ――んぅ?」
それを隠すように、思わずその唇に吸い付く。ぺろりとセノの唇を舐めると甘い味がした。
「ティ……待っ……」
「いやだ」
抗議の声を却下して、開いた口に舌を滑り込ませる。
甘い。口の中も、漏れ出るセノの声も。
「はぁ……はぁ……」
気の済むまで堪能して、解放した頃にはセノは息が上がって、瞳には薄い涙が幕を張っていた。
「満足、したか……?」
途切れ途切れに紡がれたその問いに、ティナリはにこりと笑顔を返した。
「うん。ご馳走様」